きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

la douce pluie 19

「お前の処分は後で知らせる。」

部屋にシャルルの声が響いた。
私の肩を抱く手は普段よりも強く、むしろ痛いぐらいでシャルルの行き場のない怒りを感じて私は黙って歩く事しか出来なかった。

そんな中で私はミシェルの言葉を思い出していた。

『君までもやっぱりシャルルの影をオレに落とすの?オレはシャルルのコピーじゃない。』

双子だもの似ているのは当然だわ。だけどミシェルをシャルルだと思った事はない。存在を隠されて育ってきたミシェルにとってシャルルの影は今でも深く刻まれているんだわ。
それでも二人は新しい関係を作り始めた。ミシェルは自らの意志で光を求め影を生むことを知ったはずよ。
それなのにどうして影を落とすのか?なんて言ったんだろう。


シャルルの部屋は本邸から渡り廊下で繋がれた翼館にある。ミシェルの部屋は本邸内にあった。そしてこの二つの部屋はいつもよりもずっと遠く感じられた。
二人が同じ本邸で暮らすようになってアルディ家の仕事を一緒にしているのが私は嬉しくて仕方がなかった。
それが目の前で壊れてしまいそうだった。


「ミシェルの処分が決定するまでしばらくの間、この部屋から出ないでくれ。」


二人で部屋の前まで来ると真っ先に言われたのはこの言葉だった。
シャルルがミシェルを意識しているのが痛いほど伝わってくる。あんな場面を見せられたら当たり前よね。

「分かったわ。」私はそれだけ答えてシャルルの後に続いて部屋へと入った。
扉を閉めた途端、シャルルは私をもの凄い力で抱き寄せた。逞しい胸が頬に当たり私はシャルルに包まれた。
背中に回された腕の力はシャルルの不安を感じるには十分だった。

「マリナ…。」

シャルルは私の髪に顔を埋めて私の名前を呼んだ。私をこんなに大切にしてくれる人に私は秘密を持ってしまったんだ。

「マリナ、向こうで君の様子を見せてくれ。過呼吸が気になる。それに少し横になった方がいいだろう。」







私がベットに横になるとシャルルは心配そうに私の髪を撫でる。

「大丈夫か?」


そう言ってシャルルは私の手をとり脈を見ている。私はそのシャルルの繊細な手を黙って見つめるだけだった。

「一般的に過呼吸と呼ばれるが、君は過換気症候群だ。過呼吸は運動後に発症するケースが多い。それに比べて過換気症候群は精神的不安によって引き起こされる。つまり過度のストレスだ。
胸の痛みや手足の痺れ、眩暈を起こす事がある。…ミシェルと何があった?」


私はシャルルの説明を聞いていてハッとした。今になって分かった。
私はあの時…ミシェルに向かって確かにあんたもお医者さんみたいねって言ったわ。あんたも何でも知っているのねって…過呼吸の説明をするミシェルを前に私は言った。
私はさり気なく言った言葉だったけどミシェルにとっては違っていた。
ミシェルはひどく傷付いたんだわ。だからあの時、私を抑えつけたんだ。

あれは私に抗議していたんだ。
私はミシェルを傷付けてしまった。その事でミシェルは処分を受けようとしている。シャルルに話さなくちゃいけない。

「私がいけないの。ミシェルを傷つける事を言ったからミシェルは怒って私を抑えつけたの。だからミシェルを責めないで。」

「何を言ったんだ?」

シャルルは注意深く私を見ている。私の心の動きを見落とさないようにしているんだわ。

「シャルルみたいね…って。
応急処置をしてくれる姿を見ていてふと思って言ってしまった。」

「そうか…。それで君に自分の想いをぶつけようとした。そこにオレが現れたわけか。それなら君のストレスの原因は一体何?今の話は発作後の事だ。」

私は何て答えればいいのか躊躇った。
シャルルは写真の存在を知らない。もちろんマルクに脅迫されていることも。
私、シャルルに言えない事ばっかりだ。


「ミシェルに聞くことも出来るがオレは君の口から聞きたい。
何があったのか教えてくれ。
マリナ、過呼吸になる程のストレスの原因は何だ?」


私を見つめる青灰色の瞳は真実を求めていた。シャルルに適当な事は言えない。
でも写真の話をしてミシェルの処分が余計に厳しくなるのはイヤだった。
ミシェルは私に何度も力を貸してくれた
。深い意味はないキスでもシャルルはきっとそう思わない。
そんな事を考えているうちにまた苦しくなってきた。
私の異変に気付いてシャルルが私を自分の方に横に向かせると背中を摩りながら声をかける。

「マリナ、ゆっくり呼吸するんだ。
落ち着いて、大丈夫だ。
ゆっくりと息を吐いて…落ち着くんだ。また過呼吸を起こすぞ。
そう、ゆっくりとだ…。」



シャルルがすぐに気付いて私を落ち着かせてくれたからさっきほど苦しくはならずに済んだ。
だけど息苦しさはなくなっても胸がつまる思いは変わらない。


「マリナ、今日はやめておこう。
オレは少し出かけるが遅くならないようにする。君はゆっくり休むんだ。いいね?」


その時、シャルルの携帯が鳴り響いた。







つづく