きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の祈り(パラドクス後マリナ編)14

記憶が戻る気配は全くないまま数日が経ち、ゲストルームに移ってからも相変わらず敷地内を散歩したり物思いに耽ったりして過ごしていたけれど、ふとミシェルの言葉を思い出していた。

「一人で不安になって泣いたりしちゃだめだぜ。」

ミシェルと話がしたくなって屋敷内を探しながら歩いてみた。
当主って普段はどこにいるのかしら?

ちょうど通りかかったメイドさんに尋ねてみた。ミシェルの部屋ってどこにあるの?って。
彼女は困った顔をして俯いてしまった。
ん?何かおかしな事を聞いちゃったかな…。

「申し訳ございません。私も存じ上げません。」

それだけ言うと立ち去ってしまった。なんだか変な感じだなぁと思いつつ他の人に聞いてみることにした。その後も何人かに聞いて歩いたけど反応はみんな同じだった。
メイドさんって知らないものなの?
こうなったらジルに聞いた方が早いと思ってジルを探すことにした。
ところがアルディ家って広すぎて部屋の数も相当あるから見つけ出すなんて無理だと諦めるしかなかった。それよりも内線電話で呼んだ方が早いかしら…。

中庭を抜けてお屋敷に戻ろうとした時にすぐ近くでブーンって羽音。
ハチが蜜を集めに花に集まって来ていたみたいだった。
へたに刺激をして刺されたらイヤだからそーっと通り過ぎようとした時に何かが頭の中を駆け巡った。

ハチ……ふと頭の中に浮かんだ言葉。
直後にまるでスライドショーのように映像が頭の中を駆け抜けていく。
車イスの少女…アーモンド色の髪を背中の真ん中まで伸ばした髪の野性的な男性、それにジル…?

胸の中で靄がかかっている。何だろう…この感じ。…。


その時に後ろから声を掛けられた。
振り返ると中庭のベンチに座りこっちを見ているミシェルがいた。
2人の見分けはつかないけど声を聞けばどっちかはすぐにわかった。

「マリナ、だいぶ調子が良さそうだな。散歩かい?」

そう言って白金色の髪を揺らして私を見つめるミシェルは太陽の光を全身に浴びてキラキラと輝き、まるで天使のようだった。
すっかり見惚れてしまった私にミシェルは笑いながらベンチの隣に座るように私を手招きした。

「ちょうどよかった。あんたと話がしたくてあんたの部屋がどこか聞いて歩いたんだけど、誰も知らないって言うから困ってたとこなのよ。」

妖しい光を宿してミシェルは瞳をキラリと輝かせた。

「オレに何を話したかったの?」

「何って訳じゃないけど、ミシェルともっと話をして記憶を取り戻すきっかけになればいいなぁって思ってね。先の事を考えると不安なのよ。自分は暗闇に閉じ込められてるような感じがするのよ。
でも光を求めたい。光の中の住人になりたいの。いつまでもここに居るわけにはいかないものね」

私はちょっぴり寂しくなって目が潤んできた。私ったら何、泣いてるのよ。
もしかしてミシェルが隣にいるから素直な気持ちが言えたのかな。

ミシェルは何か考え込む様子で右手で顎先を摘まんで何を見るでもなく空間を見つめていた。
私が居ることを忘れてしまったかのように全く反応もなく動かなくなってしまった。ミシェルの目の前で手を振ってみたけど見えてないみたい。
一体どうしたのよ。まるで彫刻みたいに眉一つ動かない。

これって、どこかで…。


胸のざわめきが騒がしく、懐かしさと、もどかしさが入り混じり不安が襲ってきた。言い知れぬ不安がそこまで来ていた。深海に引き摺り込まれて行くような
恐怖が押し寄せる。

私は両手で自分の肩を抱きしめ襲い来る不安に押し潰されそうな自分を守るようにして身を縮ませた。
するとミシェルは両手で囲むように私を抱き寄せた。
突然の抱擁に私は体をピクッとさせた。

「どうしたんだ? 怯えてるのか?
自分が誰なのか分からないって不安だろう。記憶障害とはふとした時に全てを思い出す事もあれば一部のみ又は何も取り戻せない事もある。だから過去に囚われず、これから光の中を歩いて行けばいい。その一つ一つが新たに君の思い出となる。過去に縛られるなよ。」

胸の中のざわめきが消えていく。
過去に縛られるなよ…自分でも気付かないうちに思い出さなきゃって焦っていたのかもしれない。

いつか思い出せればいい…

再び自分にいい聞かせた。


「こちらでしたか。」

その声でミシェルは腕を解くと私は自由になった。夕食の時間になっても私が戻らないからジルが探しに来たのだった。
美しく煌めく瞳は悲しい色をしていた。

休むように言われていたのに出歩いた事で心配をさせてしまったのかな。
悪いことをしたと思って私はジルに謝った。

「いえ、違うのです。ミシェルとマリナさんが一緒に居るのを見かけて少し驚いただけです。ミシェル、後日、執務室にて確認したい案件があります。伺ってもよろしいですか?」

「あぁ、構わない。」

ミシェルの答えを聞くとその場を後にした。私たちは邸内へと戻りジルは部屋まで送ってくれた。

「それでは夕食を用意させますね。」

そう言ってジルは出て行った。
1人きりで食べる夕飯は寂しいものだったけど、まだ左腕はギブスだから当然、片手だけで食べるわけ。食事の補助にメイドさんが世話をしてくれたの。
それに全ての料理が一口サイズにカットされ綺麗に盛り付けられていた。
フォーク片手にパクパクと食べている私を見てメイドさんは微笑んでくれた。

「マリナ様が元気になられて本当に良かったです。以前アルディ家にいらした時と食欲も変わらず料理長も一安心されてますよ。シャルル様が止めるまでずっと召し上がっていたのがとても印象深くて私もよく覚えています。」


シャルルが止めるまで…って?


私はミシェルともシャルルとも親しかったのかしら?








つづく