きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

心をこめて16

ミシェルはワゴンの上からシャンパンを取ると私にグラスを持たせて注ぎ、自分の分も入れて、パッと輝くような笑顔を向けて言った。

「こうしてマリナちゃんと過ごす事はもうないと思っていたけど嬉しいよ。
さあ、ルイ・ロデレールクリスタルで乾杯しよう。改めて、オレ達の再会にカンパイっ!!」

黄金色のクリスタルの何とも美しいこと!豊潤な果実の味わいがクリーミーな泡によって心地よく包みこまれている。

「美味しいっっ!!とっても綺麗ね、このシャンパン。」

きっとこのシャンパン、すっごく高いのよね。素敵、お金持ちって。
割り勘とか言わないもの。言われても払わないけどね。だって私はアルディ家に居候の身だもの。1円だって、いや、1ユーロだって持ってないわ!
ミシェルにそう言うとクスッと笑って

「君は本当に可笑しな子だね。ますます興味が湧いてくるよ。なんなら身体で払ってくれてもオレは全然構わないよ。」

不敵な笑みを浮かべると頬を傾けて唇を近付けてきた。
何度もその手には乗らないわ。からかわれてばかりじゃないんだからね!
私は焦る事もなく余裕でいた。

徐々に近付いてくる唇……ん?
止まらない?!焦って咄嗟に後ろへ下がろうとした私の後頭部をミシェルは手で押さえるとぐっと力をこめて固定した。
次の瞬間、ふっと唇を逸らし私の頬に軽く口づけた。

「オレと渡り合うにはまだまだのようだね、マリナちゃん。
先日、君にちょっかいを出すなってジルに釘を刺されたばかりだ。シャルルがなぜ君に夢中になるのか分からなくもないが…。いや、何でもない。
さて、メイドも明日で終わりだ。オレにも聞かせてくれないか?なぜ君がメイドをしているのかを…。
一方的にジルに決定事項なので。と聞かされただけだし、本家の意向は拒めない立場だったし、君にも興味があったから理由は聞かなかった。君から聞かせて貰えるとありがたいんだが…」

ジルはなーんにもミシェルには言ってなかったのね。それは私への配慮だったのだろう。

私は隠していた訳でもないし、敢えて話す事でもなかったから…と言ってシャルルへの贈り物を私の手でどうにかしたくて思いついたのがメイドの仕事だった事を恥ずかしいけど俯きながら話した。だってシャルルに話してるみたいだったのよ。
声しか違わないって困るのよ!!

するとミシェルは一瞬、青の瞳に影を落とし、孤独の闇に包まれた表情をした。でもそれはほんの一瞬ですぐにそれを押し込めて隠してしまい、優しい眼差しを私に向けてふわっと微笑んだ。

「そんな風に君に思われて兄上はこの世の何よりも悦だろうな。それで一体何を贈るんだい?」

探るような鋭い視線とシャンパンの程よい酔いについ話してしまいそうになったけどダメ、ダメ!教えられないわっ!

「シャルルに贈るものだもの。シャルルより先にミシェルに教える訳にはいかないわ。でもあんたにも協力して貰うつもりだけどねっ!!」

私はウフフっと笑ったけどミシェルは面白くなかったらしく、私はショコラを勢いよく口に放り込まれ、あふあふしてしまった。息ができなくなるじゃない。
でも口に入ってきた食べ物を出すって私には出来なかった!
やいっミシェル!いくら私だってそんなに口の中にショコラは入らないわよ!

ムホッムホッ…私はむせてると慌ててミシェルがクリスタルをくれた。まるで悪戯っ子だわ。
一気にショコラごと飲み干す私を見ていてふとミシェルはプッと笑い出す。

あぁ、ミシェルとこんな風に笑い合うなんて…。この人もまた孤独の殻で自分を囲い守っているんだと思った。
絶対に私がその殻をぶち破ってあげるわ!あんた達双子は距離を置く事も争い合うことも必要ないもの。

私はミシェルの笑顔を見ながら私に出来ることは何だろうと考えていた。



時計が0時を知らせるとさすがに遅くなってしまったと、私は焦り急いで本邸へと戻った。もちろんアニーの車でね。
深夜にも関わらず、執事、メイドの数名が正面玄関で出迎えてくれた。
みな、何か不安そうな、そんな表情なのが気になったんだけど早々に部屋へと戻った。

みんなの不安そうな表情の理由がすぐに私にも理解出来た。

ミシェルとの関係も当主争いをめぐって対立していた頃には考えられない位にこの数日で仲良くなれた気がして心が温かい気持ちになっていたのが一気に急降下よ!すっかり酔いも冷めた!!


部屋へ入るとリビングのテーブルの上にメッセージカードが置いてあった。
目をやるとシャルルからだった。

「こんな時間まで一体何を楽しんでいたんだい?君はオレが留守で好きにしているようだね。おやすみマリナ。」

なんで出掛けてるのが分かったのよー!
と慌てていたら執事さんが申し訳なさそうに教えてくれた。

「先ほどシャルル様より外線が入り、マリナ様は中庭を散歩されてるとお伝えすると探してすぐに折り返せ。とおっしゃいまして…。15分ほどして再度、外線が入り散歩から戻るとすぐにお風呂に入られて…とお伝えしました。その後2時間ほどでしょうか。使いの者が本邸を訪れ、シャルル様直筆のメッセージカードをマリナ様の部屋に置くように言って帰られたのです。」

私は、明後日のシャルルの帰りに怯えた。絶対に怒ってるわよっっ!!
きゃーどうしたらいいの?






つづく