きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

君と蒼い月を 2

夕飯には冷蔵庫にあった野菜と少しの豚肉で中華丼と卵スープを作った。
家賃も含めて生活費はすべて和矢が出してくれていた。それこそ編集部に行く交通費や原稿用紙代までも。
さすがにそのぐらいは自分で出さなきゃと思ってバイトを始めようと思った。
和矢は週末が休みだから平日の昼間、週に二日程度なら問題ないだろうと考えながらあたしは和矢の帰りを待った。
ところが19時半を過ぎても和矢は帰って来ず、あたしはソワソワし始めた。
面接の時間に遅れて行くわけには行かない。でも何も言わずに出かけたらきっと心配するわよね。
お店までは歩いて15分。
そろそろ出ないと間に合わない。
仕方なくあたしはアルバイトの面接に出かけてくるとメモを残して家を出ることにした。
面接が始まるとすぐに店長は勤務時間の話を始めた。
今は平日の昼間だけ働きたい人は取っていなくて、でも週末の夜に少しでも出られるならすぐに採用するし、昼間も入れるよと言われた。
さすがにこの場では決められないと伝えると、あたしの後にも二人ほど面接があるから枠がなくなる可能性があると即決を迫られた。
週末は時給も平日よりも高くなるらしく、決して悪い話じゃない。土日のどっちかだけ、しかも数時間だけなら和矢もいいって言ってくれるだろうとあたしは迷いながらもOKした。

「じゃ明後日11時に来られる?」

今日が火曜だから木曜ね。

「はい」

すると店長は頷くと契約書に必要事項を記入しながらこれから一緒に頑張ろうと声をかけてくれた。

「これからよろしくお願いします」

日頃、編集部に行っても足蹴にされることが多く、一緒に頑張ろうなんて言われたあたしは少し浮かれた気分で家へ帰った。

「ただいま」

玄関を入ると和矢はまだスーツを着ていて帰ってきたばかりのようだった。

「お前おっちょこちょいだから買い忘れでもしたのか?」

そうか、和矢はまだあたしのメモを見てないんだ。

「バイトの面接に行ってきたのよ」

「バイト?なんで?」

スーツを脱ぎながら和矢があたしを振り返った。

「ほら、原稿用紙代とかまで和矢に出してもらうのは悪いなって思って」

それに二人の記念日にはお揃いのマグカップとかも買いたい。
でもこれは内緒にしておこう。
すると和矢は「そうか」と小さく言うだけだった。

「近くに中華のファミレスがあるでしょ。そこなんだけど木曜から行くことに決まったの。昼間だけだし、土日はどっちかだけだから良いよね?でさ、そこの店長がね……」

「悪い。俺、明日は早いから風呂入ってきていいかな」

「あ、うん。じゃ、すぐに食べられるようにご飯温めておくね」

「飯は済ませてきたからいいや」

「そうなの?」

初めてのことだった。
なんでもお父さんの古くからの知り合いの取引先の社長さんに誘われたらしく、断れなかったらしい。
だったら連絡くれればいいのにと思いつつ、仕方ないかと、あたしは一人で中華丼とスープを温めて食べた。
ひと味足りない。
何を入れれば美味しくなるだろう。
そんなことを思いながら食べ終えた所で和矢がお風呂から上がってきた。

「明日早いって何時に出るの?」

「5時半かな。マリナは起きなくてもいいから。じゃ、おやすみ」

そういうと寝室に消えて行った。
話足りない気持ちはあったけど、和矢だって早起きしなきゃいけないから仕方ないわよね。
あたしはさっとお風呂を済ませ、和矢を起こさないようにそっと隣に潜り込んだ。
いつもとは違って和矢は壁の方を向いて眠っていた。
和矢に背中を向けられて眠るのは初めてかもしれない。
普段はあたしが先に寝ちゃっているせいね。
少し寂しく思いながらもあたしはすぐに眠りに落ちた。

 

つづく