あくまでもシラを切るつもりなら仕方がない。今ここで無理に問い詰めて、今のオレたちの関係が崩れてしまう事をオレは怖れていた。マリナと出会い、オレは自分の弱さを知った。
手放したくはない。その思いだけがオレを支配していた。
「シャルル、どうかしたの?」
マリナは最後の一粒を口に放り込みながらオレを覗き込む。
「いや、何でもないよ」
忘れる事は出来ないがさっきの事は忘れる事にしよう。手を伸ばしマリナの髪にそっと触れた。柔らかな髪がオレの心を癒やしていく。マリナがこうして隣にいてくれるだけで幸せだ。
「食べ終わったならそろそろ空港に向かおうか。ジェットを待たせている。テトナ島の近くのサンジュリーナ空港まで行き、そこからヘリでテトナ島へ渡ろう」
テントの出口に近づくと何やら海岸沿いが騒がしい。パフォーマーでも現れたのか。
目をやると人集りが出来ている。
そこへ車の手配に向かっていたクロードがオレの元へ駆け寄ってきた。
「シャルル樣、アルディ家の車を待たせている付近で子供が川に転落したようで騒ぎになっています。今、車をこちらに回してますのでもうしばらくお待ちください」
「それで子供は無事なのか?救助隊は?」
緊張が走る。水難事故が起きた際、救助者もまた溺れるケースが多い。この二重遭難が後を絶たない。救助者がむやみに飛び込むと溺れた人間はしがみついたり、暴れたりするためどんなに泳ぎに自信がある人間でも自らも溺れてしまう。
「申し訳ありません。そこまでは確認しておりません」
「シャルル……」
マリナは心配そうな表情でオレの判断を待っている。
「君はそこにいろ」
最悪のケースを想定しながらオレは駆け出していた。
「シャルル、待って」
マリナの声を背中で聞きながらオレはテントから飛び出した。
クロードが慌てたように近くにいたSP達を呼び寄せオレの後を追ってくる。
まだ落ちてから間もないのか、それともすでに……。
大人では飛び込むのはさすがに危険だが子供なら何とかなるか。
川沿いに向かうとすごい人集りだった。
「通してくれ」
何もできずにただ集まってきているだけの野次馬達の間を掻き分けるようにして川に近づくとパニックを起こしてもがいている子供とその子の元へ誰かが泳いで近づいているところだった。このまま子供の元へと辿り着いたら救助者も危ない。
オレはシャツのボタンを一つ外し、両手をクロスさせて裾を掴み一気にたくし上げシャツを脱ぎ捨てた。
「シャルル樣、危険です!おやめ下さい。救助隊が来るまで待ちましょう」
クロードが慌ててオレの止めに入る。
「それでは間に合わない。大丈夫だ。オレは救難訓練を受けている。お前はもしもの時の為にAEDを用意しておけ」
「分かりました」
靴を脱ぎ大きく息を吸い込み、オレは川へと飛び込んだ。
つづく
******************
みなさん、お待たせしました。
緊迫した場面で次回となってしまいましたがシャルルの半裸身を想像しながらお読みくださったでしょうか?(≧∇≦)
鍛え上げられた身体を惜しげもなく晒してパリのセーヌ川に飛び込むのシャルルカッコいいでしょうね~(ノ∀\*)キャ
←不謹慎な発言にシャルルの冷凍光線が飛んできそうです(笑)