子供も心配だが救助に向かった人間も大丈夫だろうか。大人と子供、二人を同時に救出するとなるとかなり困難だ。
岸から数メートルの辺りで二人の姿をはっきりと捉えたがすでに先に向かった救助者によって子供は確保され大人しくなっているようだ。
意識がないだけなのか?
それとも遅かったか?
二人に近づいたオレは胸の奥に鈍い痛みを感じた。ついさっき忘れようとした友の姿がそこにあったからだ。
クセのある黒髪を濡らし、必死で意識がない子供を抱えてこちらへ泳いで来たのは和矢だった。片手で子供の肩を抱え込むようにしているからなのか不自然な泳ぎ方だ。まさかまだ肩が治ってないのか?時おり沈みかけては顔を出し、何とか浮いていると言った状態だった。
まったく人が良いにもほどがある。和矢のことだ、何の知識もないまま夢中で川へ飛び込んだのだろう。まったくこれでは二重遭難になるところだ。
急いで和矢に近づき子供の腰を支えて寝かせた体勢にさせた。
「君も一緒に溺れたいのか?!」
「死ぬかと思ったよ。肩の調子があまり良くないんだ」
笑えない冗談を言って見せたその笑顔は昔と何一つ変わらない。
オレは手を伸ばし子供の鼻先に手をかざし、わずかだが自発呼吸がある事を確認すると子供の頚椎の下に手を回した。意識喪失の場合は舌が気管を塞ぐのを防ぐために顎を持ち上げた格好にした方がいい。
「まだ治してないのか?」
「手術は受けた。けどたまにこうして痛むんだ」
「たいした医者に診てもらったもんだ。あとで診てやる」
息が上がっている和矢に代わってオレはその子を連れて泳ぎ始めた。
「一人なら泳げるよな?それとも救助隊を呼ぶか?」
「やめてくれ、かっこ悪いだろ」
「無茶するからだ」
オレたちが岸へと向かうと救助隊が到着していた。子供を引き渡すとオレたちも点検用の鉄梯子で岸へと上がった。
広げたシートにぐったりと横たわる子供は救助隊員によって処置を受けているところだった。さっきまで僅かだが息はあったが意識が戻らないのか?
「代われ」
救助隊員は怪訝そうな顔をしてオレを見上げる。
「ご家族の方ですか?今、処置をしているので離れていて下さい」
「私は医者だ」
救助隊員は慌ててその場から離れた。
横たわる子供の胸の動きがない。心肺停止か?!
心臓マッサージと人口呼吸を始める。
「和矢っ!クロードを呼んで来い。AEDを持っているはずだ」
つづく