「この辺りでいかがでしょうか?」
「そうね、ここなら庭木も邪魔にならないし、絶景ポイントかも!」
今日は革命記念日。
市内は朝から盛大な催し物が目白押し。中でもパリの象徴でもあるエッフェル塔から打ち上げられる幾千もの花火は壮大らしく、あたしはこの日をずっと前から楽しみにしていたんだけどーー。
「だめだ。大体、人が集まり過ぎる。そういった場所では警護が難しくなる。SP達を困らせる事になるのはわかるだろう?」
シャルルに反対されるとは思ってたけど、まさか警護の話を出してくるとは思わなかったわ。
だってシャルルならともかく、お屋敷からほとんど出ないあたしのことなんて誰も知らないはずだもの。
「別にあたしはあんたみたいな有名人じゃないんだから狙われたりしないわよ……」
と、思わず心の声がもれてしまってあたしは慌てて手で口を塞いだけどあとの祭り。
「先々週の月曜、君はジルに無理を言って市内のカフェ・ド・フロールへ行ったね」
やだ、バレてたの?!
あの日はたしか鑑定医の仕事でシャルルはオルレアンに行ってたはずじゃ……。
「先週の木曜にはエリオットを連れてブーランジェリーまでパン・オ・ショコラを買いに行ったらしいな」
うぅ……。
エリオットにはシャルルには内緒よって言っておいたのに。
「だって……急に食べたくなったのよ」
「それならサマリーに頼めばいいだろう」
サマリーはあたしの身の回りのことをしてくれてるメイドさん。
「忙しそうだったから、つい……」
「君がオレに黙って出かける方が皆は困ると思うけどね。君の車の後ろには一体何人のSPが付いていたのかだな。オレが留守の間に何かあっては大変だからね。彼らも必死だったろう」
「えっ?そうだったの?」
「それだけ周りを警護されていたとすれば、さぞ君は目立っていただろう。有名人も顔負けだな」
というわけで、あたしは市内に駆り出すのは諦めて、お屋敷の南側にある庭園にガーデンセットを用意してもらい、そこで観覧することにしたの。
南庭園ではちょうど薄紫色のクロッカスや西洋アサガオのヘヴンリーブルー、薄桃色のツリフネソソウなどが咲いていてとっても綺麗。さらに食べ物を用意してもらえばもう最高よ。
「ではマリナ様、花火の時間までは大人しくお部屋でお過ごし下さい」
エリオットは窘めるようにそう言った。
きっとあたしのおねだりにいちいち応じないようにってシャルルに釘でも刺されてるんだわ。
「わかってるわ。もう出かけたいとか言わないから安心してちょうだい」
***
「だいぶ外が暗くなってきましたね」
サマリーはカーテンを閉めるとあたしを振り返った。
「シャルルからはまだ連絡ない?」
「はい。まだご連絡はないです」
「そう……」
花火の開始時間の20時まであと20分。できるだけ間に合うように帰るとは言われたけどこの時間まで連絡がないってことは一緒に花火は見れないかもしれない。
いつもなら自分の車で仕事に行くんだけど、今日は市内のあちこちで交通規制があるからってシャルルは昨日からオートエコールに泊まってるの。で、帰りはシャルルからの連絡を受けた運転手が規制外でシャルルを拾って帰ってくるって予定だったんだけどその連絡がまだらしい。
きっとどこもかしこも混んでて規制外まで歩くのも一苦労なのかも。パリに来て初めての革命記念日だったからシャルルと一緒に見たかったな。
「お庭の準備はできているようなので、あちらでシャルル様の帰りをお待ちになられてはいかがですか?」
「そうね。先に庭に下りて待っていようかな」
そう言ってあたしが立ち上がった瞬間、ものすごい轟音と共に窓ガラスがガタガタと音を立て揺れ始めた。
「何?!地震??」
つづく