きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

Reve de continuation 7

その日からあたしはシャルルのことばかり考えるようになっていた。
政治工作のもみ消しと華麗の館から盗まれた何かを取り戻すことができれば再び当主の座に戻れるようにするとルパート大佐は言っていた。
シャルルはちゃんとやれているのだろうか。もしダメだった場合、また孤島送りってことになってしまうのだろうか。
考えれば考えるほど心配になってくる。
だけどあたしにはそれを知る術はない。もしあのままシャルルと一緒にパリに戻っていたら、こんな風にやきもきすることもなかったはずだ。
シャルルが今、どうしているか知りたい。
でもどうやって?
パリに行くお金なんて持っていない。
その時、和矢の顔が浮かんだ。
そうだ、和矢なら知っているはずだわ。それこそアルディ家の代表番号じゃなくてシャルルのプライベートナンバーだって知っているかもしれない。
和矢だってきっとシャルルのことが気になっているはずだわ。
あたしは手帳を引っ張り出してきて、さっそく電話をかけてみた。ところが和矢は家には居らず、どこからか電話が掛かってきた後、慌てて出かけて行ったと家政婦さんは教えてくれた。
どこに行ったのか聞いてみたけど行き先は分からないと言われ、仕方なく和矢が帰って来たら電話があったことを伝えて下さいと言って電話を切った。
慌てて出かけたって和矢は一体どこへ行ったんだろう。とにかく今は和矢の帰りを待つしかない。

しばらくあたしは電話の前で待っていたけど、結局その日は夜の十時を過ぎても電話はかかってこなかった。
時間が時間なだけに和矢ももうかけて来ないのかもしれない。明日の朝、もう一度電話することにして布団に入った。

翌朝、九時を過ぎるのを待ってもう一度電話をかけてみた。だけど和矢は昨日から帰って来ていないとのことだった。

「和矢さんが連絡もないまま外泊をすることなんてないので一体どうしたんでしょうか?事故にでもあっていなければいいのですが」

と逆に家政婦さんは心配していた。和矢のお母さんがパリへ行ってしまってから仕事で家を空けがちなお父さんの代わりに和矢のことをずっと見てきた彼女は、いわば母親代わりなんだろう。
あたしももし和矢から連絡があったら家に電話を入れるように言っておきますと伝えて電話を切った。
それにしても和矢は一体どこへ行っちゃったんだろう。考えてみたらあたしは和矢のことをあまり知らない。
普段は学校に行っているんだろうけど休みの日は何をしていて、誰と仲が良いのか、普段どこで遊んでいるのかとか、何も知らないんだと改めて思った。
それに比べてシャルルは……。
あんなことが起こるまではたくさんの大人達を率いてアルディ家の当主としての仕事と研究所の仕事と毎日忙しく働いていたはずだわ。友達は和矢一人だけ。
その和矢との仲もあの時、壊してしまった。身代わりまで務め、唯一シャルルを理解してくれていたジルも今はモザンビークに行っている。
そう考えるとシャルルは今、本当に一人きりなんだわ。
孤島への移送がなくなったってだけでシャルルはたくさんの物を失った。
そんなシャルルをあたしは一人きりで行かせてしまったんだ。
胸がぎゅっと苦しくなった。
ふわりと花が咲くような笑顔も今は誰に向けることもなく、ただ一人で闘っているんだろうか。
逃亡生活の中で見た、たくさんのシャルルの顔が次々と思い浮かんだ。
その時、あたしはシャルルにもう一度会いたいと思った。
この先もシャルルのいろんな表情を見たい、そう思ったら胸のつかえがふっと消えてなくなったようにさっきまでの苦しさは消えていた。
もしかしてあたし……。

「ジリリリーン」

けたたましく鳴り響く電話の音にびくりとした。和矢だと直感した。
今見つけたばかりの自分の本当の思いが受話器を取ることを躊躇わせる。
もし今、和矢の声を聞いてしまったらあたしはまた自分の思いを見失ってしまうかもしれない。
でもこのままでいるわけにもいかないことも分かっていた。今の思いをちゃんと和矢に話そう。
受話器に手を伸ばしかけた瞬間、電話がプツリと切れた。ホッとしている自分がいた。あたしは何をしているんだろう。
和矢が無理やりあたしを連れ戻したわけじゃない。あたしが自分で決めたことなのに。
すると再び電話が鳴りだした。
迷いながらもあたしは受話器をとった。

「はい、もしもし」

「あ、オレだけど今、忙しい?」

すぐにあたしが電話に出なかったから忙しいと思ったんだわ。後ろめたさが胸に刺さる。

「ううん、ゴミ捨てに行ってただけ」

ほんの小さな嘘があたしを責める。

「昨日、電話くれたんだってな。ごめん、急用で出かけてて、さっき帰ってきたんだ。何かあったか?」

何の疑いもなく優しく語りかけてくれ、あたしを気遣ってくれる和矢の声が心に沁みる。
シャルルの連絡先を教えてもらおうと思って電話をしたの、その一言を言い出せずにいると、

「大丈夫か?マリナ。お父さんに何か言われたのか?」

そうだった。実家に電話をするってところまで和矢に話していたんだ。その流れで和矢はうちの親に挨拶したいって言ってくれてたんだ。
でも結局は家賃を払ってくれていたのは実家ではなかった。たぶんだけどシャルルなんだと思う。その理由は全くわからないけど、でも他には考えられなかった。

「マリナ?聞いてるか?」

「あぁ、うん」

「それで実家にはいつ行く予定?オレ、来週から学校が休みに入るからいつでも行けるぜ」

「そ、そうね。いつにしようか?」

この前とは事情が違う。家賃の件は実家とは関係なかった。
しばらく実家に行くつもりはもうなかった。だから一緒に行かなくても大丈夫って言わなきゃ。それにシャルルに会いたいって思ってることも話そう。あたしは大きく息を吸い込んだ。

「あのね、和矢。あたし……」

「じゃあ、今度の土曜にしようか?」

あたしの言葉をかき消すように和矢は話を進めた。

「いや、あのね、和矢」

「わりぃ、キャッチが入っちった。じゃ、土曜の朝そっちに行くよ。またな」

「あ、待って和……」

言うだけ言って和矢は電話を切ってしまった。急ぎの電話だったのかもしれない。でもどうしよう。土曜っていったら明後日じゃない。



つづく