きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

夢から覚めて1

「ねえポール、少し休憩にしましょうよ。もう二時間はしてるわよ。さすがに疲れちゃった。」


あたしは手にしていたペンをテーブルに置いて重くなった首をぐるりと回した。ミシミシッと骨が軋むような凄い音がする。


「アイタタタ…。」


首を摩るあたしを見てポールは苦笑いしながら言った。




「マリナ様、少し休憩したらすぐに始めますよ。今のペースだと10年は掛かってしまいます。」


あたしはシャルルに内緒でフランス語の勉強を始めたの。
シャルルもそうだしアルディ家の使用人は全員が日本語を話せるから特に困る事は何もないけどあたしが突然フランス語を話し出したらシャルルはきっと驚くわよ。
それでジルに頼んで使用人を一人借りて教えてもらっているの。
ポールは普段、ジルの秘書をしているんだけど午後の数時間だけゲストルームでこうしてあたしの勉強に付き合ってもらっているの。


「マリナ様そろそろお茶はその辺で終わりにしていただけますか?
それからおやつもそんなにお召し上がりになると私が叱られます。」


ポールはあたしの前からお茶とお菓子を取り上げるとさっさと片付けてしまった。うぅ…おやつぐらい好きに食べさせて欲しいわ。


「さぁ始めますよ。先ほどの母音についてもう一度練習しましょう。
menuはメニューではなくムニュと言います。くれぐれも間違えて発音しないようにして下さい。これは開音節による…」




あたしのこの頭は一体何が入っているんだろうと自分でも思うぐらい教えてもらった事がなかなか覚えられない。それでも根気強くポールは教えてくれるんだけどさすがに二時間も同じ事をしていると飽きてきちゃってあたしは大きな欠伸をしてしまった。
テーブルを挟んであたしと向かいあって座っていたポールは小さく頷くと何かを決心したような顔であたしを見た。


「『涓滴岩を穿つ』と言う言葉もあります。今日のところはここまでにしましょう。」


けんてきって何だろう?
でも…まぁいいっか。長くなるかも知れないからまた今度聞けばいいわ!


ポールは参考書やプリント類をテーブルの上でトントンと整えると自分の鞄の中にしまった。
あたしが持ち歩いてるとシャルルにバレちゃうからね。こうやって授業の時にポールが持ってきてくれるの。


「では、また明日も同じ時間でよろしいですか?」


「えーと、シャルルは明日も仕事だったよね。うん、お願いするわ。」


次の授業の約束をすると、あたしはポールと別れて本館から伸びる渡り廊下を歩いて自分の部屋に戻った。
あたしがパリで暮らすようになってすぐにシャルルは自分の部屋の隣にあたし専用の部屋を用意してくれたの。
シャルルは自分が夜中や朝方に帰ることが多く、あたしが落ち着いて寝ていられないだろうからって言って同じ部屋にするのはやめたんだけど本当にそれだけなのかな?
だってあたしは部屋を出入りされたぐらいじゃ起きないわよ。なんせ日本にいた時は隣の生活音が聞こえてくるのが当たり前のボロアパートに住んでいたんだもの。だからあたしは気にならないって言ったけどシャルルはそれでも「オレが気になるから」って言うのよね。


その時に思ったの。
もしかしてシャルルはあたしのイビキがいやなのかも知れないってね。
あたしはいつかの華麗の館での事を思い出していた。あの時あたしはすぐにイビキをかいて寝ちゃったのよね。


あたしはソファにゴロンと横になり、キレイに並べられたクッションを一つ引き寄せてそこに頭を乗せた。
うん、最高!
程よい硬さと触り心地の良さにあたしは夢の中へ誘われるように目を閉じた。








つづく


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みなさん、お久しぶりです。
いつもご訪問ありがとうございます
ブログを始めて一年と少し経ちました。当初からマリナちゃんには「私」と言わせていた私(紛らわしい?)
原作では「あたし」なんですよね。もちろん知っていて、あえて「私」にしていました。
だけどどうしても「私」だとニセモノ感が出ちゃう。読み返してみると違和感がやっぱり残る。キャラ自体のニセモノ感は単に私の力不足ですが
なので思い切って「あたし」にしました。急にどうしたっ?!と思われた方がいるかもしれないのでご報告までに。