私は部屋を飛び出した。
だけどシャルルが追いかけて来ることはなかった。
その重厚な扉はまるで私たちの心までも隔たせているかのようだった。
『そうか…。』
シャルルはそれしか言わなかった。
あんたはイヤじゃないの…?
このまま終わりにするの…?
私はシャルルとの約束を楽しみにしていた。それを知っていたサラが親切で誘ってくれたのよ。そんな事さえもあんたは許せないの?
わざわざ連れ戻しに来るなんてどこまで私を監視するのよ。
こんな事がこの先もずっと続くなんて私は耐えられないわ。
もう日本に帰ろうかな…。
ふと、そんな事を考えながら眠った。
翌朝、突然帰った事をサラに謝ろうと思っていた。だけど部屋に現れたのはメアリーだった。
「サラは?」
メアリーに聞いたけど交代理由は分からないと言っていた。
シャルルが何かしたんだわ!
サラが何をしたっていうのよっ!
私はシャルルの執務室へ向かった。
こんなんじゃ、本当にやっていかれないっ!
私は執務室の大きな扉をノックして返事も待たずに強引に入った。
机に向かって座るシャルルと向かい合う形で立っているサラがいた。
(返事も待たずに入室するような真似を他の人間がしたらどうなる事か…きらは想像して怖くなった…)
「マリナ、サラとの話の途中だ。後にできないか?」
シャルルは私が不躾に入って来たことを責めることはなかった。
まるで昨日の事が何もなかったかようだった。
「できないわ。シャルルどうして今朝はサラを外したの?昨日のことはサラには責任ないじゃない!文句なら私に言ってよ!」
「マリナ様、あの…違うんです。私は外されたわけではありません。シャルル様は悪くないんです。」
「サラ…あとはオレが話す。下がっていい。」
はいと言うとサラは深くお辞儀をして部屋を出て行った。
部屋の中央に配置されたタモライトグレーのアームチェアに座るようシャルルは私に促すと自分は向かい側に腰を下ろした。
その表情は苦しげで私を真っ直ぐに見つめる青灰色の瞳は私に何かを求めているようだった。
「マリナ、まず君の言っているサラの件だが、彼女は訳があって離職することになった。
これは彼女の意志によるものだ。それに伴い君の世話係を今朝からメアリーに変更すると報告があった。」
「わけってなに?あんたがクビにしたんじゃないってこと?」
シャルルは静かに頷いた。
「オレはアルディ家当主だ。使用人の配置まで思慮する暇はないよ。
すべて使用人長に一任してあってオレは報告を受け、承認するだけだ。」
さっきまで沸き立つような怒りは治り私は自分が何かを間違えてるのかもしれないと思い始めた。
そもそもサラの家に行くと決めた時にシャルルは反対していた。交友関係にまで口出しするシャルルを私はうるさいと思っていた。
「私が使用人のサラと仲良くするのが気に入らなかったんでしょ?」
シャルルは参ったと言うようにため息をつき、教えてくれた。
「主従関係を発展させることで彼女が働きづらくなるとオレは考えたからだ。
そしてサラは君と親しくなるにつれ、他の使用人から嫌がらせを受けるようになっていた。
ある日長袖のメイド服を着る彼女を見かけてピンときたよ。あれを着ているのは彼女だけだったからね。問い詰めるとキズを隠すためだと言ってたよ。
君との事を良く思わない連中がいたってわけだ。」
この事をシャルルは言っていたの?
友達にはなれないって、それでシャルルは私に忠告してくれていたんだ。
シャルルはそうなる事があるって教えようとしてくれたのに私は聞こうともしなかった。
私はシャルルの優しさに気付きもしないでひどい事を言ってしまった。
「この事で君を傷付けたくなかった。
楽しそうしている君を見ていて言えずにいた。だが結果的に君とサラを傷付けてしまった。」
膝の上に肘をつき、両手は頭を抱えるようにしているシャルルがいた。
「君の事となると判断が鈍るんだ。事実を告げる事が全てではないからだ。
マリナを傷付けたくないと願うオレ自身が君を酷く傷付けてしまった。」
「シャルル……。」
彼の言葉1つ1つに私への思いやりが込められていて私は一体シャルルの何を見ていたんだろう。
シャルルを疑い、責めて、怒りに任せて一緒にいることさえも投げ出そうとした。
シャルルを信じられずに日本に帰るとまで考えていた。謝りたい、シャルルに言ってしまった言葉を取り消したかった。
自分の過ちに涙を止めることができなかった。
つづく
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みなさま、こんにちは!
えーと、後編で収めることが出来ずに
最終話へと引き継ぎになります。
前、中、後、終…と、新しい?
それでも続くなら次はなんでしょうね?
完とか?w 構成が雑ですいません
今週、休みがなくてですね…更新速度まで落ちてます。←グチです(-。-;