きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛はそこにある…je crois 21

 
ジェットの準備完了を告げる空港職員の声が別れの合図となった。
最後のキスを、その温もりを抱きながら私はシャルルの小さくなって行く後ろ姿をいつまでも見つめていた。

「マリナ行こうか。」

薫の声でハッと我に返った。
心にポッカリと大きな穴があいてしまったような喪失感だわ。
あっけないほどの別れだった…。

「マリナ、このまま実家に向かうのか?うちの車を下で待たせてあるから乗せて行ってやるよ。」

旅客ターミナルを抜けて駐車場へと並んで歩いていた。

「実家には行かないわ。このままアパートに戻るから電車でいいよ。」

私がそう言うと薫は立ち止まり私の肩に手を乗せた。
私が薫を振り返ると苦しげな表情をしている。

「それならマリナ、うちに寄って行かないか?お礼も兼ねてご馳走するよ。それに兄貴は連れて行かれちまったし1人でいたくないんだ。」

悲しみの色が薫の瞳に広がっていく…。
そうだよね。やっとの思いで日本に帰って来たのに兄上は遠くへ行ってしまったんだもの。私たちの想い人は揃ってパリへと行ってしまったってわけね。

どうせ私は何の予定もないし、私も正直1人になるのはイヤだった。
あのアパートで孤独に震える自分を想像するのは簡単にできた。
薫と一緒なら忘れていられる。

「それじゃお邪魔させてもらおうかな。
どうせ帰っても1人だからいいわよ。」











「おい、起きろ!マリナ、着いたぞ。」

半ボケで目を開けると薫の家に着いていた。車に乗った途端に寝てしまったようだった。

「まったく子供と一緒だな。
走り出した途端に夢の中だ。何処でも寝られるって特技だよな。降りないならそのまま車庫で寝るか?」

そう、薫はこういうやつだったのを今の今まで忘れていたわ。

「あんた、私にお礼がしたくて連れてきたくせに、そんな言い方はないんじゃないの?」

私がふてくされていると、

「移動中ずっとおまえさんに肩を貸していて身動き取れなくても、ずっと我慢していたあたしの優しさは伝わらないかい?」

 うわっ…ご、ごめんなさいっ!
冷や汗が出てきたっ!空港から薫の家までって相当な時間よね。


「おまけによだれは垂らすし、イビキは凄い。あいつに頼んで治す薬でも作ってもらったらどうだ?」

その瞬間、現実へと引き戻された。

あいつに頼んで……。
薫、私ね、もうシャルルには会わないんだよ。取引したんだもの。
だから頼みたくてももう頼めない…


「何だよ急に、しおらしくなって。冗談だから早く降りておいで。」


私はそっと差し出された手を掴んだ。
先に降りていた薫が身を屈めて私へと手を貸してくれた。
薫の手は細く、少しだけ冷たかった。


見渡せばヒマラヤ杉がうっそうと生い繁り、目の前には古い洋館が見えた。
前にも何度か遊びに来た事があったけど相変わらず暗い雰囲気を漂わせていた。今もご両親は不在で使用人が数名いるだけだった。

あの事件の後は以前にも増して日本に帰って来なくなったよって普通に話しているけど、薫の心の中は複雑よね。
兄上が生きている事は両親は知らない。

こんなに広いお屋敷に1人で居たくないのも分からなくもないわ。






夕食は言葉通りどれもこれもご馳走ばかりで私はお腹いっぱい食べて大満足だった。
アルディ家にいた時の夕食はほとんど毎日フランス料理のコースだったから、こうやってテーブルいっぱいに並べられた料理を好きなだけ取って食べるのは新鮮だった。


「この後あたしの部屋で少し飲もうか?
散々、車で寝てたからまだ眠くないだろ?」


さりげなく皮肉を入れてくるわね。
だけど私も眠れそうにないから一緒に飲むことにしたの。
車で寝たからじゃないわよ!もちろんシャルルとの別れが辛くて。

それが少しのつもりが、気付けばワインのボトルがすでに4本転がっている。
部屋にワインセラーなんて物があると、ついつい手が伸びちゃうわよね。

「次はシャトーペトリュスにするか。
これはフランス産でポムロールの王と呼ばれているんだ。滑らかな口当たりがこの上なく心地良く感じるから飲み過ぎるなよ。」


薫はボトルを手にしながら隣に座った。1つずつワインの説明をしてくれるけど、私には何が違うのかよく分からなかった。要は飲めれば何でもいいのよ!


「マリナには説明してもこの価値は分からないか…。
違いも分からんやつに飲ませるんじゃワインが可哀想だな。」

ワインを手際良く開けて私のグラスに注ぎ入れると意を決したかのように私に向き直った。

「そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?おまえさんが辛そうにしている理由をさ。あたしが何も気付かないとでも思ってたのかい?」

その真剣な眼差しに動揺を隠しきれない私。心臓がドキドキしてくる。
誰にも言えない。言ってはダメ。
だってシャルルの耳に入ったらこの取引は阻止されてしまうもの。
私は首を小さく振った。




つづく