きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

マリナBD創作(前編)

「マリナごめん。もう行かないと…」

そっと私を抱き寄せると甘美な感じの唇を寄せて口付ける。
シャルルはそっと私を放すと颯爽と車に乗り込む。車は走りだし小さくなっていく。庭の向こうを曲がり車は見えなくなった。秋の風が私の胸の中を通り抜けて心が震えてしまいそうになる。

「シャルル……。」

「さあ、マリナさん風邪をひきますよ。中へ入りましょう。」

ジルは私を本邸の中へと促すと後ろからそっとストールを私に掛けてくれる。すぐに部屋に戻る気になれなくてジルをお茶に誘ってみる。

「ジル、少しだけお茶に付き合ってくれない?1人の部屋には戻りたくないの」

ジルは優しく微笑むとぜひご一緒させて下さいと言ってダイニングへと2人で向かった。
最近シャルルが仕事で遅かったり出張で何日も屋敷に帰ってこないと寂しくなるの。アルディ家に住むようになってから4年が経とうとしていた。
倦怠期…それはないと思う。シャルルは出会った頃と何一つ変わる事なく愛してくれている。ただ、アルディ家当主としての仕事と医師としての仕事もさらに忙しさを増し、部屋で眠る事が少なくなっていた。私も十代の頃のように寂しい、一緒にいて欲しいと口にすることもなかった。シャルルの立場を理解できるように少しは大人になったから。そんな事を言ってシャルルを困らせたくなかったし、きっと私が寂しいと口に出したら一緒にいる時間を増やしてくれたと思う。
でもそれはシャルルが無理をして寝る時間を削ってまで作り出した時間を私に使うであろう事も想像できた。私はシャルルにそこまでして欲しくない。だからシャルルの帰りをじっと待つだけ。毎日一緒にいられたあの頃が懐かしく思える。
1週間ぶりに昨日帰ってきたばかりでまた今日もスイスへと出掛けてしまった。
帰国は3日後だって言ってた。

「マリナさん、この所元気がないようですが体調がすぐれないのですか?それとも何か心配事でもおありですか?」

心配そうに私を見つめる青灰色の瞳はシャルルと同じ色をしている。とても似ている2人。ジルといるとシャルルを思い出して胸の奥にグッと何かが込み上げてくる。目の奥がじんわりと熱くなり視界がボヤける。

「マリナさん…?」

泣きそうな気持ちを抑え込み喉の奥に熱を閉じ込めて私は首を降った。

「何でもないの。少し寂しいだけなの。秋だからかしらね。」

紅茶とクリームブリュレ、フランボワーズのムース、苺のタルトがワゴンで運ばれてきた。

「うわぁ、美味しそう!」

甘い物は相変わらず目がなくて、いくつでも食べられるけど毎日1つしか出してもらえないんだけど今日はジルが頼んだせいかしら、3種類もある。しかもどれも2つずつよ。
久しぶりに胸がワクワクするような気分だった。

「ねえジル、どれから食べる?どれも捨てがたいわねぇ。」

私がはしゃいでいるとジルがふわっと包み込むような笑顔で私を見ていた。

「マリナさん、やっと笑ってくれましたね。私は苺のタルトにしますわ。」

ジルはケーキサーバーで苺タルトを取り分けると私に視線を向けてどれにするのかと尋ねた。私がフランボワーズのムースを選ぶと手際良く私の分も取り分けて
くれる。

「さあ、マリナさん頂きましょう。こんなにたくさんのケーキを用意した事はシャルルには内緒にですよ。」

ジルはいつも私の心の中を見透かしてるかのようにそっと寄り添い優しく接してくれる。シャルルが出掛ける時はジルが一緒の事が多いのに今回は行かなかったみたい。でも私にとってはありがたかった。こうして話し相手になってくれるのはお屋敷の中にはジルしかいない。たくさんの人が常にいるけど仕事中なので話し相手にはならないものね。

取り分けてもらったムースを口に運ぶと滑らかな舌ざわりに程よい甘酸っぱさ、ベリーの香りが口いっぱいに広がって、とても美味しい。
ジルも苺のタルトを上品に口へと運んぶ。その様子を何となく見ながら、シャルルも選ぶとしたら絶対に苺のタルトだろうなとぼんやりと考えていた。

「マリナさん…?」

ここに来てから何度目だろう。
ジルにまた声を掛けさせてしまった。
お茶に誘っておいてぼんやりするなんて失礼よね。

「ごめんね、ジル。ケーキが美味しすぎて何だかぼんやりしちゃったわ。
今回はどうしてシャルルと一緒にいかなかったの?」

「仕事の内容が商談関係の場合は交渉、調査など必要となりますが今回シャルルは医師としての仕事なので私ではなく研究所の人間が同行してます。」

シャルルは私には行き先や日程は話すけど仕事の話は一切しない。私が分からないのもあるけどプライベートに仕事を持ち込みたくないのだと思う。私も敢えて聞くこともなかった。

こうしてジルと話していると心が落ち着いてくる。全種類を食べ終わってお腹もいっぱいになった。
気持ちが落ち着いた私を居室まで送り届けるとジルはまた誘って下さいねと言って自宅へと帰って行った。

豪奢な居室はシャルルが留守の時は無駄に広すぎる。3日もすれば帰ってくるわ。独り言を言いながらバスに浸かりさっさと寝ることにした。

真夜中に自分のうめき声で起きた。
背中も汗でビッショリ濡れていて額から汗が溢れる。嫌な夢を見ていた…?
全く覚えていないけど苦しさだけが残っている。気分も悪くなってきてベットでうずくまる。悪い夢のせいかしら…。








つづく