愛の祈り(番外編)3
数か月ぶりの薫との再会は積もりに積もった話で湧き立った。私たちの勢いに厭きれたシャルルが部屋を後にしてから夕食を挟んでさらに長い時間、薫に用意されたゲストルームでお互いの話をして過ごした。夜になるとワインをお供にしてすっかり絨毯の上に座り込み、更に語り明かした。
アルコールの摂取は控えるように言われている薫は今日だけと言いながら少しだけ飲んだ。
「それじゃ、おまえさんはミシェルとも良い感じになってたって事か。
よくシャルルが黙って見ていたよな。あいつ嫉妬深そうじゃん。」
私は「あはは…」と苦笑いになる。
そしてシャルルの胸の内を思うと胸が苦しくなった。
そんな私の頭にポンと手を乗せて薫は遠くを見つめながら話し出した。
「きっとおまえさんが事故に遭った時に何があっても助けたいって思ったんだろうな。生きてさえいてくれたら何もいらないって思えるほど心配したはずだ。
やっと目が覚めたら記憶がないんじゃ見守る事しか出来なかったのかもしれない。おまえさんの想いは知らなかったんだろ…」
そうやって話す薫を見ているとシャルルの事を話しながら薫自身の事を語っているように私には見えた。兄上をずっと側で見守りながら何度も何度も願っていたはずよね。
そんな薫の思いを考え始めたら、切なくなってきて目元が熱くなってきた。
「なんだいマリナちゃん、そんなに潤んだ瞳で、誘ってんのかい? いいぜ、2人で禁断の扉をこじ開けて、朝までたっぷり楽しむかい?」
私を熱い眼差しで見つめ、私を抱き寄せ上向かせると頬を傾けてその艶やかな唇が近づいてくる。
うっとりと見つめながら薫のされるがままに私は目を閉じた。
直後に薫は大爆笑っ!
「本当にして欲しかったかい?」
しまったっ!…薫の誘惑に負けてその気になっちゃったじゃないっ!
「シャルルのやつ、あたしがおまえさんとキスしたら妬くかな?」
「私で遊ばないでちょうだいっ!」
ふざけている薫を見ていたら、本当は兄上の事を聞きたかったけど、本人が話すまでその話題に触れるのはやめておこうと思った。あの日のまま、ずっと眠っている兄を見守り続けてる薫の気持ちを思うと胸が痛んだ。
「マリナちゃん、今夜はここで寝ていくかい?それともシャルルの所に戻る?」
だいぶ飲んだしそろそろ眠くなってきたもんね。今夜は薫と一緒にいたかった。
薫の話を聞いてあげられないかわりに側にいたかった。
「ここで寝ていくわ。なんだか修学旅行みたいじゃない?」
私が薫にいっぱいの笑顔で言ったら、
「シャルルの部屋に戻ったら埋め合わせさせられるしな。ここにいても変わらないと思うけど。帰らないならあたしが相手をしてやるよ!」
きゃーっ!! どっちにしても寝かせてもらえないじゃない!
それならどこか空いてるゲストルームを借りるだけだわ。私が内線電話を手にした途端に薫が慌てて飛んできて私の手から受話器を取り上げた。
「マリナちゃん、こんな時間に部屋を準備させるのは迷惑だからやめておけよ。
それにあたしと何かあったのかと勘ぐられるぞ。シャルルの部屋に戻れない、何かがあると思われていいのかい?
あたしはここで男だと思われてるみたいだしさ。」
私は大人しくここで寝ることにした。寝室を覗いてみたら大きなベットが置いてあった。これなら2人でも十分ね。
2人でベットに入り私はすぐに眠ってしまった。だけどすぐに薫に叩き起こされたのよ!
「あたしのシーツを取るんじゃない!ゴソゴソ動かないでくれよ。気が散って寝られやしない!マリナ、うるさくするならシャルルの所へ送り返すぞっ!」
そんなに怒らないでよ。薫が神経質すぎるんじゃないの?!
真夜中のそんなやり取りに疲れた薫は結局、1人で毛布を持ってソファに行ってしまった…。
うるさくてごめんなさいっ…。
つづく