きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の祈り(番外編)2

アプローズと呼ばれる接見の間は絨毯もカーテンも壁紙も全て淡青で統一されている部屋だった。
窓辺には真っ白なグランドピアノがあり、その上には青い薔薇が飾られ見事に咲き誇り際立っていた。さすがに青薔薇の部屋って言うぐらいね。中央にはソファセットが置かれ、壁にはいくつもの絵画が飾られている。どれも立派な装飾を施された額縁に収まり希少な物だと一目で分かる物ばかりだった。

重厚な扉を開けると窓辺にもたれて腕を組みながら外を眺めている懐かしい薫の姿が目に入った。

「か、かおるーっ!」

私が声を掛けると薫はバッと駆け寄ってきて強く抱きしめた。

「マリナっ!今まで何していたんだ?」

私は抱きしめる腕の強さから薫がとても心配をしてくれていたのが伝わって来た。私が日本を発ってからすでに数ヶ月が経とうとしていた。
私がパリに行こうと決めたのは彼女のおかげだった。
和矢と一緒に暮らす事とシャルルへの忘れられない想いで揺れ動いていた私に、大切なのは自分の気持ちに素直になる事
だと言って航空券を渡してくれたのは薫だった。あの時、薫に会っていなければ私は日本にいて和矢と一緒に暮らしていたかもしれない。そして今もなおシャルルへの想いに悩み苦しんでいたかもしれない。それは和矢に対しても失礼な事だ。私でさえ気付いてなかった心のモヤモヤを見抜いてパリへと送り出してくれた。それなのに連絡の一つもなければ心配にもなるわよね。
まさか記憶障害になってるなんて普通は思わないもの。

「いつまで経っても連絡はないし、日本に帰ってきた風でもないしさ。ここに電話してもお答え出来ませんの一点張り。
それではるばるパリまで来たんだぜ。」

シャルルに告白をしに来たけど振られてヤケになってセーヌ川に身を投げたんじゃないかとか、アルディ家にたどり着けなくて迷子になったんじゃないかとか。だけど容体が安定しない兄上を残して日本を離れるわけにも行かず、やきもきしていたみたい。

日本大使館に行って捜してくれって言ったらさ、パスポートが盗難にあっていて事件に巻き込まれた可能性があるって言うだけで動く気配はない。パリ市警なんて行方不明者は年間で何百人といるからお手上げだって言いやがる。それで仕方なくここへ来たって訳さ。奴に会うまで5日は掛かるとか言うんだぜ?そんなに待てるかって!」

そこで一旦言葉を切ると私の腰に手を回してグッと引き寄せ息も掛かりそうな距離で甘く囁いた。

「あたしに連絡もよこさないで今まで何をしていたのか聞かせてもらおうか?
話によっては心配させた分、その体で返してもらうぜ。」

きゃ~っ!何てこと言い出すのよっ!
それで焦った私は今までの事を一気に捲し立てるように話した。私が話している間、黙って聞いていた薫がやっと口を開いたの。

「それじゃ奴に想いは伝わったってわけだ。マリナちゃん来て良かったな。
それで体調はもう良いのかい?」

私がもうすっかり良くなったのよって言うより早く後ろから声がして来た。

「早朝から他家を訪問するような非常識な君の方こそ体調はどうなんだ?」

身支度をすっかり整えたシャルルは皮肉たっぷりに薫に向かって言いながら私たちへ近づいて来た。

「気に食わないヤブ医者かと思っていたがどうやら腕だけは良かったようでこの通りピンピンしているよ。朝寝坊が欠点だがな。」

薫の皮肉返しにシャルルはニヤッと笑みを浮かべた。掴み合いになりそうな雰囲気に焦った私が間に割って入ろうとするのとシャルルが右手を差し出すのと同時だった。

「カオル、オレの作った人口心臓は快適のようだな。マリナをパリへ送り出してくれた事、感謝している。ゆっくりしていくといい。ゲストルームを用意させてある。」

「シャルル大先生のおかげで発作もなくなった。
何より兄貴を助けて貰った事は一生忘れない。」

そう言ってシャルルと薫は握手をしたの。2人はずっと会えば犬猿の仲だった。自分を助け兄上を救ってくれたシャルルに薫は感謝し、私にパリ行きを勧めた薫にシャルルは感謝をするようになっていたんだわ。私は2人がお互いを認めてくれた事を心から喜んだ。
シャルルと心を通わせる事が出来る人間が増えた事に胸が震える。

「それで、彼は?」

真剣な表情を浮かべ、シャルルが問うと薫は影を落とすと唇を噛み締めた。

「変わらずだ。意識は戻らない…。」

「そうか…。」

シャルルは一言だけ呟いた。
兄上は死の淵から無理やり連れ戻されていた。それは薫の死の香りに怯えた私の願いとなり、シャルルの手によって行われた。シャルルにはこうなる事は分かっていたのかもしれない…目覚める事はないと…。それでも繋ぎ止めた命の温もりに癒されて薫は今ここに居られるのだと私は思った。

「しんみりさせちゃったな…。
お言葉に甘えてしばらく滞在させてもらうよ。色々と話も聞きたいしね。シャルル、今夜は我慢してくれ。悪いがマリナはあたしが借りるよ。」

その意味あり気な発言に私は恥ずかしくなった。なんて事を言うのよ、薫っ!
まるでシャルルが発情してるみたいじゃないっ!やっとお互いを認める事が出来たのにシャルルが不機嫌になる事をわざわざ口にしないで欲しい。
私の心配を余所にシャルルはあっさりと返した。

「オレは構わないさ。マリナはオレが止めたって今夜は君の部屋に行くだろうしね。その分、部屋に戻ったら埋め合わせしてもらうから心配無用だ。」



きゃーっ!
あんたも釣られて何言ってるのよーっ!









つづく