きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の祈り(パラドクス後マリナ編)20

ミシェルと一緒にいるとあっという間に時間が過ぎていくようだった。
僅かな時間しか居られない事の方が多かったけどいつの間にか私はミシェルが来るのを楽しみにするようになっていた。
記憶障害になって間もないころにミシェルは言ってくれた。

「行きたい所へいき、いろんな物を見て感じて、そうしているうちに何かがきっかけになって思い出せるようになるはずだよ。」

その言葉通りミシェルは私に時間を割いてくれてるのがとても嬉しかった。

ここ何日かは、数分しか話す時間が取れなくて、私は忙しい時は無理をしなくてもいいわよって言うんだけどミシェルは問題ないよと言って顔を出しに来てくれていた。





今日はミシェルが久しぶりに休みが取れたから出かけようって事になったの。最近忙しそうにしていたのは、今日のためだったのね。ミシェルのさり気ない優しさに胸が熱くなった。

それなのに一日中、外出するのはダメだってシャルルに反対されてしまった。
自分が一緒ならともかくミシェルだけだと何かあった時に対処できないからって事だった。

私は諦めかけていたら、ミシェルはシャルルの事は放っておいて出かけようって言い出したのよ!
そんな事したらマズいんじゃないの?
だってシャルルはお医者さんだし、本物の当主はシャルルだし、無視したらミシェルの立場が悪くなるんじゃないの?


「シャルルの反対もすべて想定内だ。マリナをこの屋敷に閉じ込めて置くばかりじゃ何も思い出せないかもしれないだろ?だからオレは君を連れ出そうって考えたんだ。
大丈夫さ。鎮静剤は持っていくし、医療知識なら免許もなくてシャルル程ではないが一応ある。
オレはそもそもシャルル以上にIQが高いんだぜ。
昔、医学に興味があって少しかじったんだ。何かあってもオレなら対応できる。君の症状に近い症例も調べてある。」


ミシェルは私に着替えて出かける準備をしておくように言うと内線電話を取りどこかへ掛けていた。

「私だ。20分後に出かける。表に車を回しておいてくれ。
991型ポルシェ911GTS。運転手は不要だ。」

そういって内線電話を切ると天使のような笑顔で私を振り返った。

「さぁ早く支度をしておいで。シャルルに気づかれる前にさっさと出かけよう。」

私はドキドキしながら素早く着替えを済ませると2人で玄関ホールへと向かった。
用意されていたのは赤のスポーツカーだった。私は車の事はよく知らないけどとっても高そうな車なのは分かった。そしてミシェルはアルディのお屋敷から颯爽と車を走らせた。


「マリナ、これから行くところは世界遺産で有名な古城もある有名なロワール地方だよ。パリからだと2時間弱ほどで着くはずだよ。」

そう説明されて私は観光に行くのね!って思っていて最初は外を眺めていたけど、パリから離れるに連れてのどかな風景が続くのよ。高級車のシートも心地がとても良くてついつい眠ってしまったの!

「マリナ、起きて、着いたよ。」

揺さぶられてハッとした。やだ、私いつの間にか寝ちゃっていたのね。
車から降り立つとそこは大きな川のほとりで、目の前に広がる森の中に立派なゴシック様式の建物があった。

「ここはアルディ家の館なんだ。その昔オレがまだ小さい頃にママンと一緒に暮らしていた所だよ。マリナに見せたくてさ。」

そう話すミシェルの横顔は穏やかで私は見ていて眩しくなり目を細めた。
こんな優しい顔をするミシェルは初めて見たかもしれない。
彼にとってとても大切な場所なんだろうなと思った。そんな場所にシャルルの反対を無視してまで私を連れ出してくれたのがとても嬉しかった。


敷地内を歩き、中庭を抜けると扉の前で立ち止まるミシェル。私は館の中に入らないのかしら?って不思議に思っていたんだけどしばらくしてミシェルは教えてくれたの。

「ここはかつて病を患ったママンと幼少期に暮らしていたんが、現在ここのカギはシャルルが管理していて今は入ることは出来ないんだ。」

私はそう話すミシェルが可哀想に思えた。寂しそうに扉を見つめたミシェルはそこに過去のママンとの思い出を見ていたのかもしれない。
そんな横顔を見ていたら急に抱きしめてあげたくなったの。
ミシェルの前に回り込み両手いっぱいに彼を抱きしめた。と言っても私は小さくて彼の腰の辺りにまとわりついたみたいになってしまったんだけどね。
ミシェルは少しビクッとして驚いた様子だった。

「マリナ…。ここはママンとの思い出が詰まっているんだ。
こうして誰かに抱きしめられるのもママン以外は君が初めてだよ。」

私を両手で抱きしめると背中越しにミシェルは囁いた。
この人の心は孤独なんだ…心が震えているように思えて私もよりいっそうミシェルを強く抱きしめた。

しばらくお互いの体温を感じながらそうしていた。ミシェルの手が私の肩を掴み、青に近い灰色の瞳に私を映す。
キスをされるかもって思ったんだけど、こみ上げてきて止められなかったの。



「ハックション」


私はすっかりムードを壊し、ミシェルはそんな私を苦笑いしながら見つめると

「冷えて来たみたいだから、そろそろ戻ろうか。シャルルもお怒りだろう。
あまり遅くなると警察を動かしてオレを指名手配しかねない。」



そんな訳ないじゃない!って思った私が甘かったわ。










つづく