ミシェルの予想通りというか、それ以上に勝手に出かけたミシェルを警察ではなくてアルディ家の警備を使って強制連行するようにシャルルは動き出そうとしていた所に私たちはアルディ家に戻ったの。
やることが大げさ過ぎだわ。
私はそう思ったけどジルの話によれば、行き先も言わずに勝手に私を連れ出した事にシャルルはかなり心配し、いつになく慌てた様子だったみたい。
車に付けてあるGPSもオフにされていてミシェルに普段から着けさせているGPS付のネックレスも部屋に置かれたままとなっていたため、夜まで待って帰らないようなら捜索するように手配済みだったみたい。そんなに大事になっていたなんて…。
私とミシェルが車から降りて玄関ホールへと入って行くと厳しい表情のジルが待ち構えていて、すぐにシャルルも現れた。
私は怖くてシャルルを見ることが出来ずにただただ俯くばかりだった。
「どこへ行っていたんだ?」
シャルルの冷淡な質問がミシェルに向けられる。
「ロワールだ。」
ミシェルはそれだけ短く答えるとシャルルに向かって対抗心を露わにして言った。
「悪いがマリナが少し寒そうにしていたから先に夕食にしてやりたいんだ。この話はあとにしてくれ。」
2人の間に緊張が走り、普段は冷静なシャルルが珍しく声を荒げてミシェルを責める。
「なぜ、マリナを連れ出した?寒そうにさせたのはきさまだろうっ!」
私はシャルルの剣幕を正面からまともに受けてしまい、驚いて目をぎゅっとつぶった。でも2人の言い争いがこれ以上エスカレートしたら大変だと思って咄嗟に口を出した。
「ちがうのよ!シャルル。私が行ってみたいって、ミシェルに無理を言って連れて行ってもらったの。たまにはこのお屋敷から出掛けたいって。
日が暮れて冷えてきたから帰ろうってミシェルに言われたけど、もう少しだけ居たいって言った私が悪かったの。でも今は何ともないからお願いよ、許して。」
マリナ…ミシェルが私の名前を呟いて私を見つめている。
そんな私たちを見ていた青に近い灰色の瞳には悲しげな影が広がり怒りはすでに静まっているようだった。ただ切なさだけが彼を覆い尽くしていた。
チクリと何かが胸に刺さる。シャルルの悲しみが伝わってきて私は胸が苦しくなっていた。心配してくれて外出に反対したのに、私たちは無視してしまった。
シャルルの気持ちを踏みにじってしまった事への罪悪感に私は襲われていた。
こんな顔をさせたかったわけじゃなかったのに…。
後ろめたいこの感覚。シャルルに謝らなきゃって思った。
「シャルル、心配かけてごめんなさい。私、もう勝手にお屋敷から出たりしないわ。
だからお願いよ。そんな顔しないで。」
シャルルの視線に囚われ逸らすことができない。
何かを伝えようとしている。伝えたいのに我慢しているようだった。小さく首を振っていた。それは本当に小さく、私は見逃してしまっていた。
「シャル……」
私の言葉を遮るようにしてシャルルは言葉をかぶせた。
「夕食の準備が出来ている。マリナ、君が無事ならそれでいい。今日はゆっくり休め。ミシェル、2度目はないと思え。」
そう言って長い廊下の向こうに去っていく。残された私たちはそれぞれに思いを巡らせていた。
つづく