きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

忘れられないもの10


車のシートに体をあずけ、オレはそっと目を閉じた。
彼女が幸せならそれでいい。
何度も自分に言い聞かせてきた言葉だった。だが折り鶴という名のパンドラの箱にオレは手をかけてしまったのかもしれない。
息苦しさをおぼえシャツのボタンを一つ外した。

「まだオレにも人間らしさが残っていたのか……」


そんな事を考えながら自嘲した。

本来なら彼女の幸せはあいつと共にあることだ。互いに初恋の相手という奇跡の二人の中に割って入ったのはオレだ。それでもあの時二人は友情をもってオレに尽くしてくれた。


「マリナを連れて行けよ。マリナがいれば何だってできる。」


好きな子を他の男に譲るような真似はオレには絶対に出来ない。それでも和矢はあの時、自分の事よりもオレの事を優先させた。そしてマリナも友としてオレを心配し、一緒に来ることを選んでくれた。命がけの逃亡生活の中でマリナの心は次第に変化していった。
共に過ごすうちに少なからずマリナがオレに好意を持つ可能性はあった。ザイオンスの単純接触効果だ。共有する時間が増えると人は相手に好印象を抱きやすい。そして華麗の館でマリナはオレを好きだと言った。
オレは歓喜に震えた。
だがマリナの心を手に入れながらも真実はどこにあるのかと長い間、自問自答を繰り返していた。そして二人が再会したあの瞬間に全ては夢だったと気付かされた。



あの二人の事は調べようと思えばいつでもできた。だが今までそうしなかったのはオレの最後の足掻きだったのかもしれない。その足掻きのおかげでパンドラの箱を前にオレは立ち止まってしまった。
二人と向き合うまでに八年も掛かってしまった。
オレはこの目に何を映そうというのか。
それは変わらぬ二人の姿なのか、それとも……。

「ジルか?オレだ」

オレはやっとあの日から一歩を踏み出そうとしていた。
マリナが幸せならそれでいい。
確かめるだけだ。
マリナが笑顔で過ごしているという証が唯一オレを解放する。



つづく