きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の祈り(パラドクス後マリナ編)3

翌日、目が覚めるとなぜか孤独感に襲われていた。とても悲しい夢を見ていた感覚だった。それがどんな夢だったのか忘れてしまったけれど、とても切なく悲しい気持ちだけが取り残されていた。

外は雨が降っていて余計に気分が滅入ってしまう。こんな日はお腹いっぱい食べて元気出さなきゃ。
だけど冷蔵庫の中身は空っぽだった。
仕事もなくて買い物にも行ってなかったんだと思い出す。
さて、どうしようかと頭を抱えていると
リンリンリーンッと部屋に響きわたる電話の音。

仕事の話かしら?これでお金に困らなくて済むわっ!急いで受話器を取ると

「もしもし、松井さん?!お願いだから仕事をちょうだいっ!この際、何でもするわっ!私はお腹が空いて困っているのよっ!」

まくし立てて言うと受話器の向こうからは笑い声が聞こえてきた。
ん?松井さんじゃない?仕事欲しさから相手も確かめずに話してしまった事が恥ずかしくなった。しばらく笑っていた相手がやっと口を開いた言葉は、

「やぁマリナちゃん、相変わらず貧乏マンガ家やってるのかい?」

耳に入ってきたのは素敵なテナー!

「か、かおるーっ!」

小菅で心臓破裂を起こして生死の境を彷徨った響谷薫からだった。

シャルルと別れてから和矢のお父さんの伝手で大学病院を紹介してもらい、コンテナごと薫たちを運び込んだの。
シャルルのくれたカルテを担当のお医者様に渡した。その医師は完璧な治療法、的確なまでの治療計画だと感心するばかりだった。しばらくはお見舞いに行っていたけど電車代もない私には遠くから心配する事しか出来ないでいたの。

その薫からの突然の電話に私は受話器に噛みつきそうな勢いだった。

「薫、あんた体はどうなのっ?」

シャルルの作った的確な指示書に従って治療は進められ、今では月に一度、検診に通うのみでいくつか制限はあるものの、ほとんど元の普通の生活ができるまで回復していると教えてもらった。
兄上は特別室であの時のまま眠り続けているようだった。

「マリナちゃん、お腹も空いてるようだし、今から出て来ないかい?
あと10分程でそっちに着くんだ。ディナーでもしようぜ」

なんて素敵な提案かしら。私は久々の薫との再会に心踊らせているのよっ!
決してディナーに心踊らせてるわけじゃないわよっっ!
拘置所で薫が倒れた時以来だものね。
薫の元気な姿を見たかった。

薫の家の車に乗って向かった先は都内でも有名な一流ホテルだった。
さすが薫もお嬢様よね。
数か月しか経っていなかったけど、大手術を乗り越えて復活した薫は何となく痩せていた。きっと入院生活のせいだけではなくて兄上の事が気がかりで薫の気持ちを考えたら胸が詰まる思いだった。
最上階のレストランでフレンチを御馳走になり、デザートの追加注文もさせてもらって私は大満足だった。もちろん薫に会えて前と変わらずに元気そうな姿をこの目で確かめられたことが何よりも満足だったわよ。
最後の紅茶を飲み終えたときにポケットからカードキーをテーブルの上におくと甘やかなムードを漂わせながら薫が私を見つめる。

「部屋をとってあるから今夜は一緒に朝まで過ごそうぜ」

な、なんて事を言い出すのよっ!!
そんなこと、急に言われたって心の準備が出来ていないわよっ!
ってそうじゃなかったわ。
ドギマギしている私を見て肩をゆらして薫が笑っている。
また、からかったわね!!
禁断の世界に踏み出してしまおうか悩んでしまったじゃない。

「公共の場では出来ない話もあるしさ。部屋で久々の再会に乾杯しようぜっ」

それで薫が部屋を用意した理由も分かったわ。さすがに誰に聞かれるかもしれないレストランで死刑にあった兄上の命が今どうだのとは迂闊に話せなかったんだわ。当然、薫の家でも話せないわよね。
あの時あの場にいた私たち6人しか知らない事だった。

薫に続いて部屋へと入ると彼女はウイスキーを片手にソファへと座った。

「ちょっと、薫!あんた酒なんて飲んで平気なのっ?」

「あたしゃお茶で我慢だ。さすがに酒は絶対に禁止されていてね。
これはおまえさんの分さ。飲むだろ?」


そういって私の前にウイスキーの入ったグラスを差し出し改めて久々の再会に乾杯した。

薫の体調の話、兄上の今後の事、私は和矢といること、心のざわめきの話など朝方まで語り合い私はお酒も回り出していつしか眠ってしまった…。

「おまえさんの心にはもしかして…」

そんな薫の言葉を夢の中で聞きながら。









つづく