シャルルとの電話が終わって少しテラスで風にあたっていた。夏も終わりに近づき澄んだ空気が少し冷んやりとしていた。どれ位そうしていたんだろう。夜のパリの空を眺めていると涙が溢れ出しそうだった。シャルルを想うと胸が苦しくなった。
しばらく風にあたり涙を拭うとバスルームへと向かった。
一緒に暮らすようになってから初めてこんなに長い時間をシャルルと別々に過ごしたせいなのか、アルコールが入ったせいもあるのか、すっかり弱った私の心が孤独感に押し潰されそうになっていた。
だめだわ。
明日もメイドの仕事があるし、お風呂に入って今夜は早く寝ることにしよう。
バスタブにお湯をたっぷりと張りバラの香りのオイルを数滴入れる。疲れた身体をゆったりと伸ばすと気持ちが徐々に落ち着いてきた。
あの時の別れとは違う。あの小菅の別れとは…。シャルルが少し屋敷を空けてるだけじゃない。
私はすっかり気持ちを落ち着けてバスルームから出るとリビングに向かう。
扉を開けるとソファに長い足を組んで座り、白金色の髪をさらっと揺らし青灰色の瞳でこちらを見ているシャルルがいた。
「シャルルっっ!!」
私は立ち上がり駆け寄るのとシャルルが歩み寄るのと同時だった。
シャルルの逞しい胸に包まれ壊れそうな程に抱きしめられる。
「マリナ…。」
私の名前を呼び、胸の中にきつく抱き締める。息が出来ないほど強く。お互いの存在を確かめ合うかのように抱き合う。
私はシャルルがここに現れたのが何故なのか知りたくて、シャルルの背に回していた腕を緩めた。青灰色の瞳を見つめながらシャルルに尋ねる。
「どうして?ねぇどうしてここにシャルルがいるの?あんたローマに居るんじゃなかった?」
シャルルは長いまつ毛を伏せると切なげ
に私を見つめた。愛おしく、慈しむ眼差しで私を包み込む。
「電話で、マリナが泣いていたから。
君を一人で泣かせたままに出来なかった。気付いたらジェットに乗っていたんだ。ローマからは2時間ほどだしね。こんな長期の日程を組んだジルに文句を言わないといけないな。」
そう言って微笑むと私の顎を片手で摘み、上向かせると頬を傾けて唇を重ねる。唇を割り入ってシャルルが情熱を私に注ぎこむ。
私の頬を涙が伝う…。シャルルを近くに感じてシャルルでいっぱいになる。
「もう泣かないで」
神経質そうな細い指で私の涙をぬぐうと
私を覗きこむ。その眼に吸い込まれそうになりながら私は今の気持ちを伝えた。
「いつの間にか私、こんなにもシャルルを愛していたみたい。もうあんたに夢中だわ。」
シャルルが私の腰を引き寄せ折れそうなほど抱き寄せる。
「マリナ、君の方こそどこまでオレを夢中にさせるんだ…。もう今夜は寝かせないよ。」
シャルルは長い長い口づけをすると、ゆっくりと腕を緩めて私を抱き上げ寝室へと向かう。
ベットに私を横たえるとスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めながらベットに腰掛ける。
私はシャルルの行動力に驚きつつ、この後の事を考えるとドキドキしていた。
ジェットを飛ばしてまで私の涙をぬぐいに来てくれた…。
シャルルに大切にされている事を実感し、今夜は彼の温もりを感じて彼の香りに包まれていたいと思った。